鍼灸マッサージ師会の歴史

1986年4月20日(昭和61年)
 東京都保険鍼灸マッサージ師会設立

鍼灸マッサージ師の保険治療普及のための運動に取り組みました。健康保険において患者が鍼灸マッサージ治療を選べるようにするため、岸イヨさん鍼灸裁判に取り組みました。

1997年12月1日(平成9年) 通知保険発150号発行を勝ち取る

この保険発150号は、神経痛やリュウマチなど療養費支給対象疾患として、同意書が発行された場合には、療養費を支給して差し支えないという通知であり、また、医師の診断検査と鍼灸治療の療養費支給の併給を認めた。鍼灸治療を受けながらでも医師の診断、検査が受けられるようになりました。

2002年5月24日(平成14年) 通知保発0524003が発行される

鍼灸治療の療養費支給の治療期間、治療回数の制限がなくなりました。これらは岸さん鍼灸裁判において、患者、国民の立場から、健康保険の問題点を明らかにし改善を求めた成果です。

2003年9月22日(平成15年) 法人資格獲得

有限責任中間法人東京都保険鍼灸マッサージ師会として登記。法人資格を得て、保険申請業務の改善、保険治療の普及活動に取り組みました。

2008年12月1日(平成20年) 有限責任中間法人から一般社団法人へ登記変更

鍼灸マッサージ師の営業の安定、社会的地位向上のために、保険治療の普及、保険制度改善に取り組んでいます。

鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の治療は、健康保険では療養費の支給として取り扱われており、患者が健康保険で治療を受けるためにはいろいろ不合理な制限がなされています。しかし、健康保険において鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の差別はやめ、患者が希望する場合は受診できるようにしようという運動により、少しずつではありますが前進してきたのです。

鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の治療をなぜ健康保険では認めないのかおかしい事は「おかしい」と声を上げる事が大切です。

詳細は2ページ目以降をご覧下さい。 [pagebreak]

療養費支給条件改善の運動

一般社団法人鍼灸マッサージ師会の前身である東京都保険鍼灸マッサージ師会は、1986年4月20日に結成されました。呼びかけ役は平尾達夫氏で、良道絡会会長だった山下良平氏を会長に、須藤三郎氏、平山達夫氏が副会長に選出されました。

現在、一般社団法人鍼灸マッサージ師会の代表理事の高橋養藏氏及び副理事長の松原幸靖氏は、この結成の会議に参加し理事に選出され、以後東京都保険鍼灸マッサージ師会、全国保鍼連の運動を支えてきたのです。

会発足の目的は、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の療養費取り扱いの改善です。

東京における会の結成の半年後には、東京都保険鍼灸マッサージ師会が中心となり、鍼灸マッサージ治療の保険取り扱い改善運動推進を目的に、全国保険鍼師、灸師、あん摩マッサージ指圧師団体連合会(全国保鍼連)が結成されました。全国保鍼連の初代会長は東京都保険鍼灸マッサージ師会の平尾達夫氏であり、東京都保険鍼灸マッサージ師会は、東京保鍼連として全国保鍼連の活動の推進力の役割を果たしました。 [pagebreak]

当時の鍼灸マッサージ療養費取扱いの実情

1986年に会が発足した当時の鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の保険治療は、不合理な厚生省通知の制限とともに、保険者の恣意的な厚生省通知の解釈による保険治療の制限が一般的に行われており、保険による鍼灸マッサージ治療は極めて困難という状況が作り出されていました。

鍼灸の療養費の支給は、「慢性病であって、医師による適当な治療手段のないもの」とされています。この点は現在も変わらないのですが、当時はさらに、この通知に重ねて「医師による治療手段のないものとは、保険医療機関における療養の給付を受けても所期の効果の得られなかったもの又は、いままで受けた治療の経過からみて治療効果があらわれていないと判断された場合等をいうものであること」(保険発28昭46.4.1)の通知により保険治療(療養費の支給)が制限されていました。

「診療所や病院で治療を受けても所期効果が得られない」あるいは「病院や診療所による治療の経過からみて、治療効果があらわれていない」と保険者が判断した場合にだけ鍼灸治療の療養費が支払われたのです。

医師の同意書を添付し請求しても、1週間医師の治療を受けていなければ不支給にする、あるいは10日間医師の治療を受けていなければ不支給にするとして、保険者の判断で不支給が行われていたため、保険請求をしても支給がなされるまでどうなるかわからないというのが当時の実態であった。しかも、鍼灸治療もマッサージ治療も治療回数や治療期間の制限がなされていました。

このような保険適用の制限に加えて、さらに、療養費の申請ができるのは保険者が委任団体として認めた団体の会員に制限されており、保険者が委任団体として認めるのは、社団法人など厚生省が認めた特別の団体に制限する状況が一般的でした。

このため、健康保険の治療をするためには社団法人等の会員にならなければならず、保険を取り扱う団体は、不合理な行政のやり方にも異論を唱えないという、患者不在の保険治療の制限が維持される仕組みができていたのです。

行政のやり方に対し異論を唱え批判をする団体には、委任を認めるなというような意見にもとづき、東京都保険鍼灸マッサージ師会も全国保鍼連も既成団体の非難を受け、既成の団体から都知事にたいして、東京都保険鍼灸マッサージ師会には保険取扱いを認めるなというような要望書が提出されたことすらありました。 [pagebreak]

東京都保険鍼灸マッサージ師会の運動から岸さん鍼灸裁判へ

東京都保険鍼灸マッサージ師会、全国保鍼連は、鍼灸治療、按摩マッサージ指圧師の治療の健康保険における取扱いの規制を、国民、患者の医療を受ける権利の制限として認識し、行政に差別という根本的問題のあることを明らかにしました。この視点から、保険取扱いにおいて、鍼灸マッサージ治療も他の医療と平等に扱うことを要求して行動する新しい団体でした。

東京都保険鍼灸マッサージ師会は、まず療養費の不支給に泣き寝入りせず、不支給の取り消しを求める審査請求に訴えて、患者の立場を無視する療養費支給の不合理なやり方の改善を追求しました。

審査請求は、不合理な療養費不支給の取り消しを求めて、各都道府県の社会保険審査会、また中央社会保険審査会に不支給取り消し請求するという、患者にたいして制度が認めている権利です。審査請求に対しては社会保険審査官が被保険者および保険者、両者の主張を聴いて決定を出すことになっているのですが、しかし、審査請求は厚生省の行政指導の下にあり、問題の多い厚生省通知や見解に沿う結論となることが多く、不支給改善に結びつけることはなかなか困難でした。

このため、療養費支給において、鍼灸マッサージを差別的に制限する厚生省通知の違法性を問題にするため、行政訴訟(裁判)で争う準備をはじめた。

訴訟をおこすことができるのは患者さんです。栃木県宇都宮市の岸イヨさんは平成2年に五十肩で鍼灸治療を受けていましたが、治療の途中に外科医の診断、治療や柔道整復師の治療も受け、いろいろの治療のなかで鍼灸治療だけは不支給となりました。

健康保険の治療において鍼灸治療だけを特別に制限し、不支給とするのは納得できないとして宇都宮地裁へ提訴決意しました。いろいろの準備、検討の結果、岸イヨ鍼灸裁判を平成3年8月28日に宇都宮地裁に提訴しました。 [pagebreak]

岸イヨさん鍼灸裁判で明らかにされた医療行政の問題点

岸さん鍼灸裁判は平成3年8月に提訴し10月第1回口頭弁論から始まり、平成9年12月の第20回頭弁論まで、6年間に20回の回頭弁論が行われました。弁護団は、渋川孝夫氏、田島二三夫氏、宮原哲朗氏の3人の弁護士で、弁護団より9回にわたり膨大な陳述書が提出されました。

原告の岸イヨさんはじめ中川節鍼灸師、長田浩一医師、大渕令司氏(厚木市理療師会会長)森秀太郎氏(大阪鍼灸専門学校理事長)沖山明彦氏(東京鉄砲図診療所所長)井上英夫氏(金沢大学法学部教授)、厚生省保険局医療課野口尚氏の8名が証言しました。

原告の証人として7名の方が、鍼灸治療の適応疾患、東洋医療における鍼灸の役割、鍼灸の教育、健康保険取り扱いにおける鍼灸の差別など、鍼灸をめぐるすべての問題を取り上げ、東洋医療排除の医療行政の誤りを指摘する証言を行いました。しかし、これらの証人にたいし被告の国からの反対尋問は一切無く、議論するほど医療行政の問題が明らかになるために、議論を避けていたと思われます。

この裁判の進展のなかで、政府の医療行政の問題点が明確になり、健康保険法についても、療養費支給の通知についても改善の必要性が明確にされました。

特に井上英夫金沢大学教授が陳述書「はり・きゅう治療と療養費支給の可否」において、鍼灸マッサージ療養費支給についての諸通知の誤り、混乱を細部にいたるまで指摘しその改善策を以下のように明らかにしました。

  1. 医療制度を考えるときもっとも大切な問題は、国民の「健康権」憲法第25条である。国民の「健康権」を保障するために最も大切な問題は、患者の医療選択の権利の尊重である。どのような医療を受けるか患者が選べることが重要である。国民の疾病像が変化し、慢性疾患増加のなかで伝統医療の重要性が増しているにもかかわらず、明治政府の時代から実施された、東洋医療排除の考え方がいまだに残されている。伝統医療を発展させ、国民が選べる医療の内容を豊かにすることが重要である。
  2. 国民の「健康権」、医療を受ける権利からみると、平等の原理(憲法第14条1項)が重要である。
    療養の給付の問題で、西洋医療を受ける患者と東洋医療受ける患者の差別があるだけでない。療養費の支給として東洋医療を受ける場合でも、柔道整復師の治療を受ける患者と鍼灸治療を受ける患者の差別がある。鍼灸治療は差別的な制限を課せられて受診を制限されている。
    差別、格差の解消の根本解決は立法による解決しかないが、次善の策は、通達等による療養費支給における柔道整復師と鍼灸師の差別的取り扱いを解消する、すなわち、はり・きゅうについて少なくとも柔道整復並みに療養費支給要件を緩和することである。

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厚生省通知保険発150号の内容

裁判は1996年12月の第20回口頭弁論にて弁論終結し、判決は1997年3月13日と決定していましたが、裁判所の都合による担当裁判官の交代があり、判決が延期されるなどの経過があり、再度、判決は1998年1月29日と決定されていました。

ところが、1997年12月1日付けにて厚生省通知保険発150号がだされましたが、この通知により岸イヨさん鍼灸裁判の目的は達せられたとして、1998年1月の判決の日の直前に裁判の取り下げが行われました。裁判を支えてきた東京都保険鍼灸マッサージ師会や全国保鍼連役員に知らされず行われた裁判の取り下げの経過は不明瞭であり、全国保鍼連の運動に汚点を残しました。

裁判を取り下げる理由となった厚生省通知保険発150号とは、鍼灸治療療養費の支給に関する通知で、以下のような内容です。

「通知でいう『医師による適当な治療手段のないもの』とは、保険医療機関における療養の給付を受けても所期の効果の得られなかったもの又は、今まで受けた治療の経過からみて治療効果のあらわれていないと判断された場合等をいうものであること。

なお、通知に示された対象疾患について保険医より同意書の交付を受けた場合は、本用件を満たしているものとして療養費支給対象として差し支えないこと」。

この保険発150号は、神経痛やリュウマチなど療養費支給対象疾患として同意書が発行された場合に、「医師による適当な治療手段のないもの」「医療機関における療養の給付を受けても所期の効果の得られなかったもの」という療養費支給要件を満たしているものとして療養費を支給して差し支えないという通知です。

あくまでも医師の治療手段の無い場合に、例外的処置として鍼灸療養費を支給するという不合理な支給基準は変えないが、6疾患として同意書が発行されれば、その支給基準を満たしているものとして療養費を支給してもよいという通知の内容です。健康保険制度からの鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師を排除する立場にはなんら変化はないが、6疾患として同意書があれば、保険者が特別な場合と認めて療養費を支給するというのである。

裁判取り下げの経過に問題はありますが、この通知は、患者と鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師が協力して裁判で国とあらそい導きだした通知です。

医療先行「医療機関の診療の期間が不足している」というような事を問題にして、不支給がたくさん出されていた1997年当時、不支給を防止して健康保険による鍼灸マッサージ治療を普及するうえでは貴重な通知でした。6疾患として同意書が発行されれば療養費を支給してさしつかえないという通知は、それまでの古い通知と比較すると、健康保険による鍼灸治療の普及のために画期的な内容をもつ通知でした。

この通知により医師の同意書がある鍼灸治療、マッサージ治療の療養費支給申請の不支給が少なくなり、不合理な制限を受けながらも健康保険による鍼灸マッサージ治療が広がりはじめたのです。 [pagebreak]

療養費支給に関する厚生労働省通知の変化

厚生労働省通知保険発150(平成9年12月1日)がだされ、保険発28(昭和46年4月1日)の通知により実施されていた鍼灸治療療養費支給の要件が大きく変化しました。

保険発28通知においては、鍼灸治療の療養費が支給される場合は「保険医療機関における療養の給付を受けても所期の効果の得られなかったもの又はいままで受けた治療の経過から見て治療効果のあらわれてないと判断された場合等をいうものであること。」とされており、医療機関の治療の後でなければ鍼灸治療の療養費が支給されなかったのです。

しかし保険発150により保険発28通知のこの部分は実質上削除され、同意書があれば療養費支給がなされるようになりました。

また保険発150通知では、「ただし、同一疾患に対する療養の給付(診察、検査及び療養費同意書交付を除く。)との併用は認められないこと。」となり、医師の診断検査と鍼灸治療の療養費支給の併給を認めたことです。鍼灸治療を受けながらでも医師の診断、検査が受けられるようになりました。

さらに厚生労働省通知保発0524003(平成14年5月24日)において鍼灸治療の療養費支給の治療期間、治療回数の制限がなくなりました。

「従来、はり師きゅう師に係る療養費は、初療の日から1月以内は15回まで、1月を超えて6月以内は各月10回までを限度として支給していたが、本年6月1日以後は、個別の症状を勘案し、従来の支給期間や支給回数を超えて支給しても差し支えないものとすること。」

これらは岸さん鍼灸裁判において、患者、国民の立場から、健康保険の問題点を明らかにし改善を求めた成果です。 [pagebreak]

委任払い拒否の改善の運動 千葉鍼灸裁判

東京都保険鍼灸マッサージ師会は「保険発150号通知」を保険者に徹底する活動に取り組み、不支給を防止しすることにより健康保険による鍼灸師マッサージ治療の普及に取り組みました。保険発150号により療養費の不支給は減り、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の療養費申請は増加を始めました。

しかしながら、療養費の不支給が減少したというものの療養費の委任払いを認めない保険者が沢山あるという状況でした。

特に患者数が多く保険治療普及の障害になったのが社会保険事務所の委任払い拒否でした。

この委任払い拒否の問題の解決のため、2000年1月20日(平成12年)全国保鍼連の呼びかけで、125名の鍼灸マッサージ師が、健康保険制度における差別的取り扱いの改善を求めて訴訟を行うことを決めました。

千葉鍼灸裁判の目的

委任払いの拒否という、健康保険における差別的扱いを受けたために生じた損害の賠償を、国及び委任払いを拒否している健康保険組合に求めての訴訟です。東京都保険鍼灸マッサージ師会は、大半の理事が原告として参加し、この訴訟運動の先頭に立ちました。

裁判は、千葉社会保健所事務所、幕張社会保健所事務所、船橋社会保健所事務所など社会保健所事務所の委任払い拒否が問題となっていたため千葉地裁への提訴となりました。社会保険事務所以外では、千葉農協健康保険組合、千葉興業銀行健康保険組合、安田健康保険組合、ブリジストン健康保険組合などの15の健康保険組合および共済組合に対して、国とともに損害賠償の支払いを請求しました。

訴訟の目的について、第1回口頭弁論において原告弁護団の石井正二弁護士は訴状陳述において以下のように述べています。

「本件は、健康保険上の療養費の支給に関し、鍼灸師、マッサージ師らの治療行為を受けた

患者を柔道整復師の治療行為を受けた患者と理由なく差別し、全く同一の規定を根拠にしているにもかかわらず、片や一旦治療費全額の支払いを強要し、片や自己負担の支払いのみで足りるとする不当な扱いを継続してきたことを取り上げたものであります。

このような取扱を自ら推進し、さらに全国の健康保険組合等を指導してきた厚生省と、この指導に無批判に従ってきた健康保険組合18被告に対し、具体的に被害に遭った鍼灸師マッサージ師ら21名、日頃から差別的扱いに苦しんできた鍼灸師マッサージ師ら104名、さらに鍼灸師らによって組織されている団体である全国保険鍼師マッサージ師会、合計126名の原告が、慰謝料と謝罪広告を求めたものであります。

鍼灸師らにたいする保険給付は、柔道整復師の場合と同様、健康保険法44条の2において「療養費の支給」として行われます。この「療養費の支給」は、保険医療機関を通じて行われる「療養の給付」を補完するものとして認められてものです。厚生省は、この「療養費の支給」について、鍼灸師らの治療行為に関しては患者に一旦医療費の支払いをしなければならないとし、その後患者自ら、保険負担分すなわち療養費の支給」分についての償還請求手続きをとらなければならないという、負担が多くかつ迂遠な方法を強要してきました。

ところが、片や全く同じ法を根拠に運営されている柔道整復師の治療行為に関する「療養費の支給」ついては、厚生省は、保険医療機関による「療養の給付」と同様に、自己負担分だけを患者が負担すれば良いとの扱いを推進し、現在に至っているのであります。

つまり、この問題は、立法上の問題ではなく、全く同一の条文を根拠にして運用されている鍼灸師らにたいする「療養費の支給」と柔道整復師に関する「療養費の支給」が、異なる行政指導によって理由なく歪められているということであります。」

石井弁護士の陳述で明らかなように国の行政指導の差別、国の違法行為の改善を求めた裁判でした。裁判を準備した当初より、裁判所も役所の一つであり国に賠償を求める裁判勝利は極めて困難との意見がありました。しかし、国の行政指導の差別、違法の実態を国民に明らかにして改善の道を切り開こうということから訴訟に踏み切りました。

千葉鍼灸裁判の経過

平成12年1月20日に提訴し同年9月29日に第1回口頭弁論が行われ審議が始まりましたが、審議の中で追及したのは、鍼灸マッサージ師と柔道整復師の療養費支払い方法に差別をする理由です。

原告弁護団より、国が鍼灸マッサージ師と柔道整復師の療養費支払い方法に差別を設ける理由を明確にするよう再三求め、また、裁判所も国が見解を明らかにするよう要求しました。
この求めに対する文書が、2001年1月25日に行われた第3回の口頭弁論において提出されました。国から提出された準備書面による柔道整復師と鍼灸マッサージ師を療養費支給の条件に違いをつける理由は以下の通りです。

  1. 柔道整復師の治療は外傷性であること。
  2. 整形外科が不足した時代に、外科医の代替的役割を果たした。
  3. 平成7年9月8日に医療保険審議会が、療養費支給についての行政のやり方を肯定している。

この国の見解にたいして原告弁護団から、これらの意見は療養費として支給するかどうか検討する、いわば実態的要件を述べているものである。この問題でも異論はあるが、裁判で問題にしているのは、療養費支給要件がすでに備わっている場合、療養費として支給することが問題ない場合における鍼灸師マッサージの「請求手続き」の差別的な扱いである。

療養費の支給が決められている場合に、なぜ請求手続きの問題で柔道整復師と鍼灸マッサージ師に差を設ける理由があるのかについてはなんら答えていない。療養費支給の要件が満たされているのに、なぜ請求手続きで鍼灸師マッサージ師を差別的扱うのか理由を明確にせよとの原告弁護団の追及に回答はありませんでした。

平成14年11月15日の第12回口頭弁論では、平成15年2月4日に証人尋問を行い結審とすることを確認しました。しかし平成15年の1月23日に千葉地裁書記官を通じて、裁判所の都合により11月15日の口頭弁論で決めた証人尋問の日程を、ゴールデンウイーク、連休明けに変更したいとの連絡が原告弁護団に入りました。

この事態は、裁判長が4月の人事異動の前に判決を出す決意ができず、判決を放棄した逃亡も同然との原告弁護団の見解も聞かれました。国の意向に沿った判決を書くには疑問を持つたが、国の意向に反する判決も書けず放棄したようです。

平成15年6月24日裁判が再開されました。しかし審議を担当してきた裁判官3人が、転勤や退任などですべて入れ替わるという状況で、いったい正しい審議ができるのかという強い疑念がもたれた裁判となりました。

千葉鍼灸裁判の判決 

3人の裁判官がすべて入れ替わり、平成16年1月16日千葉鍼灸裁判の判決が出されました。

千葉地裁民事代3部判決 裁判官 山口 博 武田美和子 向井邦生 判決は原告請求を棄却しました。判決文から抜粋すると裁判官の判断の要旨は次のような内容です。

「本件取扱(柔道整復師に対する療養費の受領委任払い)は、かって合理性を有していたとしても、その後、整形外科医が増加していることなどがうかがわれる現在、果たしてその合理性があるかについては疑義がないではない。」

「しかしながら、上記のとおり受領委任払いは特例的処置であるから拡大しない方向で実施ないし運用するのが相当である上、柔道整復師については、正当な理由があって受領委任が認めら
れ、それが長年にわたって継続されてきたという事実があり、限定的とはいえ医師の代替的機能を果たしていること等を考慮すると、合理性がないとまではいえない。」

「本件取扱(保発4号)は、合理性がないとまではいえないないから、憲法14条の平等原則に違反するとはいえない。」

「柔道整復師のように、従来から受領委任払いが認められてきたという沿革のないあん摩マッサ-ジ指圧師等について、新たに受領委任を認めることは、困難であると厚生労働省の担当者が判断したとしても理由がないとはいえない。

すると、本件取扱いが著しく合理性を欠き、被告国の裁量権を濫用、逸脱するものとはいえない。」

以上の判決文の抜粋から解るように、現在の柔道整復師に対する療養費の受領委任払いは疑問はあるが、合理性がないとまではいえない。また、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師に委任払いを認められないという厚生労働省の判断も理由がないとはいえない、という判決です。言い訳をしながら厚生労働省のやり方を認めています。とても憲法の視点から国民の権利をまもる裁判所の判決とは思えない内容です。

戦前憲法の下においてすら、被保険者が治療を受ける機会を確保するために、健康保険法上特例的処置をとって柔道整復師に対する療養費の受領委任払いを認めているのです。国民の主権、個人の尊重が明記された戦後の憲法の下で、鍼灸マッサ-ジ治療を受ける被保険者の治療の機会を確保する、患者が治療を選択する権利を尊重する立場から、鍼灸マッサ-ジの療養費の受領委任が認められ当然ではないでしょうか。

東京高裁判決 控訴棄却

裁判は、東京高裁に上告され、平成18年4月27日東京高裁における判決が出されました。「判決は1審と変らず、1審よりも断定的である」との原告弁護団市川弁護士の見解が出されています。

「裁判の経過のなかで、千葉県の社会保険事務所などの保険者は、委任払いに対応するようになり大きく前進したが、千葉銀行など健康保険組合の保険者は、委任払いを認めず問題は残された。

法律上は療養費の支給であるが、半世紀も前の一時期に骨接ぎの治療で外科医の代替を果たした事を理由に、柔道整復師にたいしては、療養の給付の保険取扱いを行っている。一方、鍼灸師、按摩マッサージ指圧師は、慢性疾患が療養費支給の対象というだけで、健康保険制度から差別的に排除する基本問題についてはなんら触れられていない。

判決は、厚生労働省の主張の確認である。柔道整復師と鍼灸師、按摩マッサージ指圧師の療養

費取扱いの違いについて不合理とはいえない。厚生労働省、法務省、裁判所などの共済組合の民法上委任払いは、被保険者が指定した振込さきへの振込を、保険者は拒否できない、として認めている。」 

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